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【病弱ホールデン編】未来の不幸な若者達のために、たなやしきの半生を記そう1

ーー目が醒めると、たなやしきはソコにいた。

 

1DKの小汚い部屋だ。
たなやしきは、ダイニングの少し黄ばんだ白い椅子に座っている。

 

あたりを見渡すと、白を基調としたハイカラな電子レンジがあった。

Panasonicの高級品だ。

そいつには、液晶パネルがついていて、緑白色でデジタルの時計が“7:00”を示していた。

多分、最新型なんだろう。この家に電子レンジ以外で液晶がついている電化製品はなかった。

 

思い出せる最初の光景が電子レンジのデジタル時計だった。

 

そろそろ、幼稚園に行かなくてはならない。
初日から遅刻してなるものか。

 

ごはんに、ゆかりをかけて、急いで頬張る。

やはり、ゆかりは美味い。のりたまとは比べ物にならない。

 

 

 

さて、飯も食ったし、そろそろ行くか。

 

んっ?なんだこれ??

 

母親から手渡されたのは、大量の粉末だった。

どうやら、これを飲めということらしい。

フザケンナ。今食った米くらいあるじゃないか。

断ったが、無理やり口にねじ込まれた。

 

まずい。まずすぎる。

 

オレンジの甘さと科学的な苦味がブレンドされて、ゲロのような味がする。
幼稚園児は味蕾が沢山あって、味覚が繊細だということを、学がないババアは知らないらしい。

 

数回逆流して、口の中まで戻ってきたが、なんとか飲み込み直すのを繰り返すと、その発作は治まった。

ゲロ粉がのどち◯こに絡みつく感覚は、いっそ崖の上から飛び出したほうがマシと思えるほどに堪え難い。

 

なぜ、こんなゲロ粉を飲まなくてはならないのかというと、
俺は小児喘息アレルギー性鼻炎の二刀流なんだ。

 

俺が脳内でだけ、“ライ麦畑でつかまえて”ホールデン・コールフィールドみたいになったのは、
このポンコツの体が原因なんだよ。クソったれ。

 

 

 

そうして、俺はクソったれな朝食を終えて、幼稚園へと向かった。

ここでの暮らしは割愛するが、この幼稚園では、山で野糞をしたり、うんていで仲間を突き落としたりできる奴がカースト上位となるとってもクールな施設だった。

一番すごい奴は、小便器に大きいのをぶちまけた奴だ。

奴は、カースト最上位で、クソ王と呼ばれていた。
(シェイクスピアのリア王も、ゴールディングの蝿の王も何の関係もない。単にクソと王様をかけただけ

 

幼稚園では、厄介ごとを起こして、先生に構ってもらうことが、もっとも大事なことだった。

俺は、木登りをして、幼稚園の塀を乗り越えて、家に帰ったりして、太ったおばさんの幼稚園教諭を困らせた。

 

さて、ここで、初恋ではないが、気になる女の子の話をしよう。

その子は、一言で表すならツンデレ幼女だ。

お絵かきの授業で使う、俺の画用紙を踏みつけて、グシャグシャにした後、

 

「そこに置いているのが悪い、邪魔よ」

 

と悪びれる様子もなく、言い放った。
その時、俺の右手の人差し指を踏みつけた。

 

まさに、ハヤテのごとく三千院ナギのごとき所業だった。

 

その頃の俺には、ツンデレの教養はなかった。

ブチギレたよ。完全にキレちまった。

 

今の俺だったら、ボブサップ戦の曙のようにボコボコにやっちまっていたところだろう。

ただ、残念ながら俺は育ちが良かった。

だから、泣き寝入りをするしかなかった。
羽毛布団を涙に濡らしながら、ナギのことばかり考えていた。

 

そんな中、俺は、幼稚園で一番の親友となったWと遊んでいた。

Wは太っていて、運動も勉強も苦手そうだったが、家が金持ちなのか、スーパーファミコンを持っていた。

 

 

俺はWと夕方遅くなるまで、スーパーマリオワールドを楽しんでいた。

ゲームをしていると、あのクソったれ女のことなんて、どうでもよくなった。

 

 

このテレビゲームとの出会いは、のちの俺の人生を狂わせることとなる。

それほど、ゲームは俺の脳をガツンとハイにさせちまったんだ。

そのゲームとの出会いから、夢に現れたり、幻覚を見るほど、思い焦がれていた。

祖父母に頼み込み小学生の入学式で買ってもらうのだが、それは別のお話。

 

閑話休題。思い焦がれたナギは幼稚園の年長で死んだ。

俺の呪いが届いたのかもしれないが、遠い記憶だと白血病とか言っていたような気がする。

 

ナギのことは、画用紙を破られて、指を踏まれてムカついたことと、彼女が死んで少しビックリしたことを時々思い出す。

 

そして、何か不幸なことがあったとき、ナギよりはマシだと心の支えになることもあった。

彼女は、天国で誰かの画用紙を破っていることだろう。

彼女の肉親以外で、彼女のことをここまで鮮明に思い出せるのは、多分だけど、俺だけかもしれない。

 

今回の話のポイント

・幼稚園児のゲームを許容することは、虐待並みに罪が重い。その後の人生に大きな影響を与える。
せめて時間を制限しよう。

・子供はのりたまよりも、ゆかりが好きだ。そして、それ以上に“しそわかめ”が好き

 

 

 

たなやしき

他人の不幸から学ベば、不幸から抜け出せるのだろうか……
だとしたら、僕の小さな不幸も誰かの役に立って欲しいものじゃ。
それでは、次回もたなやしきで待ってるぞ!!

 

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