最近ヒゲ脱毛をした。正確には途中なのだが、2022年6月の時点で全部10回中の9回終わっており、あと1回で完了になる。
かがくのちからってすげー!
ヒゲの量は、かなり減ってきている。朝綺麗に剃っても帰宅するとジョリジョリだったヒゲも、今では2週間経っても髭を感じないほど減毛されている。
僕はヒゲと30年間共生してきたが、ついに別れを告げることになりそうだ。
本記事では、僕とヒゲとの出会い・愛情・恨み・そして別れの歴史などを語ろうと思う。
ヒゲがコンプレックスの人、ヒゲが生えなくて悩んでいる人、ヒゲ自慢の配管工の人、ヒゲ好きなお姫様、ヒゲが生理的に受け付けない人とヒゲに関わる全ての人に見ていただければ幸いだ。
序章、限りなく不快に近いブルー
青い空を見ると、晴れやかな気持ちになる。
青い海は、多くの命の育みを感じて穏やかな気持ちになる。
青がテーマの音楽は爽やかな透明感溢れる曲が多い。松田聖子の『青い珊瑚礁』、ガリレオガリレイの『青い栞』がふと思い浮かんだが、どちらも綺麗な素晴らしい曲だ。
サファイア、アクアマリン、ターコイズ。
一口に青と言っても、宝石の青は様々な種類があり、どの青色も個性的で美しく、世の人々を魅了してきた。
『エヴァンゲリオン』の綾波レイ、『セーラームーン』の水野亜美、『転スラ』のリルム=テンペスト、『ドラゴンボール』のブルマ、『電波女と青春男』の藤和エリオ。
ぱっと思いつくだけでも、青をモチーフとしたキャラクターは魅力的な人ばかりだ。
青色とは、とても素敵な色だ。
そこは、間違いない。
では、青ヒゲはというと、美しいと思う人は少数派だ。
どちらかと言うと……いや、ヒゲには正直になるべきだろう。あくまで個人的な意見だが、自分の青ヒゲはキモいと思っていた。ここからは、僕の人生を通してヒゲとの関わり方を探っていく。
幼少期、ロミオの青いヒゲ
幼少期。
僕が初めて出会ったヒゲは、父親のヒゲだ。
DNAの通りに父親もヒゲが濃いかった。全盛期の僕よりも濃いかった。
子どもは疑問だらけだ。それはヒゲについても同じだった。
ヒゲは髪と同じ黒色なのになぜ剃った後のヒゲは青く見えるの?
剃って肌はツルツルなのになぜヒゲが残っているの?
大事なところを守るために毛が生えているけど、ヒゲは何を守っているの?
明瞭な答えは得られず、ヒゲへの謎は深まるばかりだった。
ヒゲは見た目も凄かった。
父親のヒゲは植物のように皮膚に根を生やしており、ヒゲに命があることを否応なく実感させられた。
父親のヒゲは、僕のヒゲの原始の記憶である。
そして次章から、呪われたヒゲは着実に僕へと乗り移っていく。
中学生、そしてバトンは渡された
中学生。
やはり来たというべきか、僕も口の端に薄く柔らかくも確かなヒゲが生えてきた。
情けない少年のヒゲは、非常に見苦しいものであった。
ヒゲを剃る道具も技術もなかったので、美容院に行った際に一緒に剃ってもらっていた。
思春期なこともあり、「ヒゲ生えてきたね」といじられるのは苦痛だった。
中学生になり、ようやくヒゲが自分にも関係ある事象であることを否応なく認識させられた。
いつまでも子供ではいられない。
大人への階段を登っていることを鏡を見るたびに考えた。
中学生が一番色々なコンプレックスに悩まされる時期だと思う。つらい気持ちはすごくわかる。人は慣れていく生き物だ。大人になっていくと、コンプレックスに対しても余裕を持って接することができるようになるので、あまり悲観しないで過ごしてもらいたい。
そして、心無い一言が人を傷つけてしまうことを、僕も含めて再度認識し直そうと思う。
「ヒゲ濃すぎじゃね?」
とか、相手をバカにする意識を持っていなくても、冗談で言ったりしていないかい。
僕たちは傷ついている。君たちを呪うほどに
高校生。僕はヒゲを抜く
高校生。
1週間に1度くらいはヒゲを剃るようになっていた。
周囲ではピンセットでヒゲを抜くのが流行っていた。ヒゲを抜くと、次のヒゲが出るまでの期間が稼げた。抜き続けると、ヒゲが生えなくなるといった噂も流行った。これは草抜きのときに根っこから抜くことが由来だと思われるが、科学的根拠はまるでない。
僕たちは一本一本丁寧に毛抜きで抜いていた。
抜くと痛いけど、根本からヒゲが抜けたときには快感を感じる部分もあった。
そして、抜いたヒゲをティッシュなどに貯めていくと、謎の達成感があった。
ヒゲを抜くことで、ニキビができたり、皮膚の中で生える埋没毛など悩まされたが、今となっては良い思い出かもしれない。
ちなみに高校生のヒゲは絶対にモテないので、若い読者はヒゲ処理を忘れないようにしてほしい。
大学生。散れ、5枚刃桜景厳
大学生。
ヒゲは世界樹・ユグドラシルのように強靭な根を張っていった。普通のカミソリでは、歯が立たくなっており、ヒゲを剃ると肌を傷つけ、カミソリはすぐに刃こぼれした。
ヒゲがあまり生えない男子がいると、羨ましく思った。
「全然ヒゲ剃ったことない〜」
「ヒゲ伸ばしてみたい〜」
と聞くと、
「胸大きいと肩凝って大変だよ〜」
「背が高くていいな。私ちっちゃいから高いものとか取れなくて大変だよ〜」
と世の巨乳や低身長な女を妬む女性の気持ちがわかった。
しかし、ヒゲが成長すると共に、僕の心も大きく成長していった。
ヒゲがない人にはその人なりの別のコンプレックスだろうと考えることができるようになった。
「散れーー五枚刃桜景厳」
精神的には成長したとはいえ、強く根を張ったユグドラシルは物理的に強敵だった。ユグドラシルを倒すには、Schickのカミソリを卍解して、五枚刃にするしかなかった。
フィリップスの五枚刃は肌に優しく、よく剃れるため大変重宝した。また、本体と替刃セットの方が、替刃を買うより安いという情弱をカモにするマネタイズも学ぶことができた。
卍解は諸刃の剣でとても危険だ。その切れ味から五枚刃が鼻の下の皮膚に食い込んだことが2回あった。肉に食い込んだときの絶望感は凄まじい。食い込んだ五枚刃を自らの意志で皮膚から引き剥がさなくてはならないからだ。引き剥がすと、血だらけになる。逆に麻痺して不思議なほど痛みは感じないが、引くほど血は流れ、五枚刃に切り裂かれた見た目はぐちゃぐちゃで非常にグロくなった。そしてアドレナリンが切れた後に地獄の痛み始まるんだ。
一歩間違えば危険だが、五枚刃カミソリは優秀な道具で手放すことはできなかった。巧みに使用して、何度もヒゲの大地をツルツルにしてやった。
しかし、ヒゲの生命力は衰えることを知らず、大学卒業前になると朝根絶やしにしても、夜にはその大樹の面影を取り戻していた。
社会人。ラムダッシュとマケドニア王国
社会人。
僕は金を手にしていた。
ついにダンディなおじさまは皆持つという、ヒゲ濃い男子憧れのヒゲソリーーパナソニックの電動シェーバー・ラムダッシュを購入した。
五枚刃のラムダッシュの機能は凄まじかった。
剃る深さはさすがに肌を削りながら剃るカミソリには勝てないものの、ヒゲの濃さに合わせた振動スピード、皮膚を削らない安心の剃り心地、効率的な剃る速さ、とヒゲソリ史上最も快適な体験だった。
ラムダッシュはアレクサンドロス大王が征服するが如くヒゲを一掃していく。洗顔で泡の上から剃るとさらに滑らかに、効率的に駆逐していく。
ーーそして、大群に焼き払われた大地は青色となっていた。
僕は顔面に広がる広大な青の大地をマケドニアと名付けた。
ヒゲを伸ばすのがモダンタイムス流
ヒゲとの長い闘いの末、長かった思春期もとっくに終わっていた。
ヒゲはそこまでコンプレックスではなくなっていた。
ただ、数分の髭剃りが非常に面倒くさい!
ラムダッシュを使って効率化されたとはいえ、毎日ヒゲを剃らなくてはならない。
そこで、僕はヒゲを剃らなくて済む方法はないかと思案していた。
この頃、世間ではストレングスファインダーとかいう胡散臭い長所発見ツールや「好きなことで生きていく」というYouTuberのプロパガンダが蔓延していた。心理学者・アドラーの劣等感をモチベに変換する的な思想や自分の個性と向き合って生きることがトレンドであった。
もれなく僕は感化された。
「ヒゲは個性だ!」
「ヒゲを乗り越えて強くなる!」
「ヒゲがキモいというのは、社会的弱者を叩く視野が狭い敵だ!」
竹野内豊、オダギリジョー、ジョニーデップ、プラピ、オーランドブルーム、ヴォゴモーテンセン、ピューディパイ、ライアンゴズリング……ヒゲの有名な芸能人はすべからくカッコよい!
僕はアゴヒゲと鼻下のヒゲを伸ばし、長さを整えていた。鏡を見る。
「あれ、ダンディでカッコよくない?」(自意識過剰)
ヒゲを伸ばし、ドヤ顔で出勤した。
「私ってヒゲ好きなのよね」
会社の奥菜恵似の美熟女が僕のヒゲを褒めた。ヒゲが伸び、鼻の下も伸びた。僕の自尊心高めるには十分であった。
ヒゲを伸ばすと、剃らなくて済むだけでなく、カッコよくなる!
僕は生まれて初めてヒゲを誇りに思った。
有頂天となった僕は色々なヒゲを試した。
適当に生やしていると見せかけて、実はかなりバランスをとった無精ヒゲーー気分はカートコバーンスタイル。
アゴヒゲを伸ばしたりもした。
アゴヒゲとチョビヒゲを伸ばした諸葛亮スタイル。
「お前、社会人で、ヒゲを伸ばして、お客さんに会った時失礼じゃないか?」
上司が僕の相棒を馬鹿にする。上司のハゲは良くて、僕のおしゃれなヒゲがダメな理由がよくわからなかった。
「ヒゲを生やす意味がわからない。何かあったのか?」
意味を考えていたら始まらないよ。人生ってのは欲望さ。意味なんてどうでもいいじゃないか。
チャールズ・チャップリン
僕は上司の戯言を無視して口ヒゲを伸ばし続けた。気分はサルバドール・ダリ。
ダリのつもりで自信満々でいると、ヒゲ好きの美熟女が再び近づいてきた。僕は自信満々に口ヒゲの端をピンと弾き、彼女を見つめた。
妖艶な様子で熟女は笑い、僕のヒゲを一瞥した。年齢の割には薄いとはいえ、確かに刻まれたホウレイ線が経験の豊かさを感じさせた。
熟女はピンとした姿勢をくねらせると、僕の耳元に顔を近づける。熟女は他の社員と同じく制服を着ているのだが、起伏の大きい体のラインが強調されており、制服とは別のコスプレのようだった。僕は気づかれないようにゴクリと唾液を飲み込んだ。数センチの距離で彼女の静かな吐息を耳に感じた。心臓の鼓動が一つ高鳴った。そのまま息を漏らすように彼女は耳元で呟いた。
「そのヒゲ、チャップリンみたいね」
僕はヒゲとの決別を誓った。
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脱毛感想。永遠のヒゲ0
ヒゲ脱毛することを決意し、脱毛器の種類、脱毛方法、レビュー、相場等の情報をかき集めた。
ヒゲ脱毛には自分の肌質を知ることが重要だ。僕の特徴として、肌は色白、ヒゲは濃いめだ。
基本的に医療レーザーはメラニンに反応するため、日焼けしてない肌の方が効果が高い。また、当然ヒゲが薄い方が効果が出やすい。つまり、僕は色黒の人よりはレーザーの効果が高いが、ヒゲが薄い人よりは回数をこなさなくてはならない。
脱毛条件の要求としては3つ。
・時間が経っても元に戻りにくい永久脱毛(医療レーザー)であること。
・肌トラブル時にも対応可能な医療脱毛であること。
・顔全体であること(ほほ、アゴ下含む)であること。
僕の場合、脱毛費用は10回で約18万円だった。地域差もあると思うが、地元では相場より数万安い程度だ。
18万円と聞いて、高いと感じただろうか?
高いと感じたなら、あなたはヒゲとの歴史が浅いからだと言わざるを得ない。
僕からすれば、たった18万だ。本気で2ヶ月バイトすれば貯まる金額だ。
『ファイナルファンタジーⅦ』で少年・クラウドが18万円必要だからソルジャーになるのを諦めるだろうか。
『BLEACH』で一護がソウルソサエティにルキアを助けにいき、白哉と戦うには18万円必要だから諦めるだろうか。
……うまいこと言おうとして言えなかったが、愛すべき主人公たちはお金で目標を諦めないということを言いたかった。
お金の問題なんて努力で何とかなる。是非ともお金の問題は、コンプレックスを力に変えてクリアしてほしい。
ヒゲ脱毛でお金よりも問題なのが、脱毛時の痛みである。
レーザー種類は、アレキサンドライトレーザー、ダイオードレーザー、ヤグレーザーがあり、アレキサンドライトレーザー<ダイオードレーザー<ヤグレーザーの順でレーザーの威力・痛さが強くなっている。
クリニックのレーザーは、ダイオードレーザーだった。真ん中の強さのレーザーで少し安堵した。
医師とのカウンセリングが始まる。渡されたレーザーのパンフレットには「痛みが少ない」と記載がありさらに安堵した。
カウンセリングを終え、診療室を出る直前で医師がボソッと語る。
「人間が声を上げずに我慢できるギリギリの痛みだ」
僕は絶望した。パンフレット嘘じゃん。
カウンセリングが終わると、すぐさま第一回の脱毛が開始される。美人な看護婦さんが施術してくれるようで、本来ならヒゲと鼻の下が伸びるのだが、怖くてそれどころではない。別途で横になると、顔に冷たいジェルを塗られる。とてもひんやりする。
「最初は弱いパワーでいきますね」
ーーばちん
『HUNTER×HUNTER』でネフェルピトーと初めて出会った時のゴンとキルアのような、『エルデンリング』の最初のボス・忌み鬼、マルギットと初めて対面した時のような、うまいこと言おうとして言えなかったが、つまり、僕は一撃で心が折れた。
この激痛を顔全体に? 無理だお
「痛いですよね〜、頑張りましょう」
感情のない看護師の励ましを受けて逃げられないことを悟る。叫びたくなるのをギリギリ堪えて、僕は祈るように胸の前で両手を握り締めた。
看護師は冷静に脱毛を続けていく。一撃のたびに僕の体がビクリと震えるのを無視して、淡々と続けていく。プロである。
うんぎゃああああああああああああ
事件は鼻の下のヒゲ密集地帯で起きた。他の部位は輪ゴムで肌を弾かれる程度の衝撃だったが、鼻の下は皮膚を削り取られるような激痛に襲われた。
「痛いですよね〜、痛いですよね〜」
ギャグのように同じ言葉を繰り返す美人看護師。
レーザーの光を避けるためのゴーグルを外すと、滝のように涙を流れた。
僕は思った。あと9回も繰り返すのか。どう考えても無理だ。ヒゲどころか顔がなくなってしまう。
「それでは、冷やしますね〜」
命懸けの脱毛後、冷たいタオルで顔面を冷やされる。これはとても気持ちがいい。
「お薬ぬりますね〜」
脱毛後は薬を塗らないとニキビだらけになる。看護師は優しく顔全体に薬を塗る。これはとても気持ちがいい。
「保湿しますね〜」
脱毛後の敵は乾燥だ。看護師は優しく化粧水を顔面全体に塗る。これもとても気持ちがいい。
「乳液塗りますね〜」
乳液でフタをして、化粧水の水分が大気に放出されないようにする。潤った看護師の手が死にかけた顔をヒタヒタにしてくれる。
「日焼け止め塗りますね〜」
脱毛後の敏感なお肌に紫外線は大敵。看護師はヒタヒタと日焼け止めを塗ってくれる。
先ほどまで鬼のような顔で拷問をしていた看護師が、奴隷のような僕の肌を労ってくれる。
緊張と緩和だろうか……
気がつくと僕は看護師に魅了されていた。
悪魔のように僕の顔面を焼きまくった後、繊細な桃のように扱う看護師のギャップにときめいていた。
確かに地獄のような痛みだ。でも、それが終わると、優しく保湿してくれる。
そんな真逆のストレスと癒しを受けた奇妙な1日に、僕は新たな性癖が目覚めるのであった。
次の脱毛が楽しみだ。気が狂ってそんなことを思っていた。
ヒゲ脱毛を悩む君にチャップリンの名言を送ろうと思う。
人生に必要なものは、勇気と想像力。それと、ほんの少しのお金です。
チャールズ・チャップリン
勇気 激痛に耐える勇気
想像力 安くて痛くない医療用でないサロンで効果が出ないという想像力
ほんの少しのお金 約18万円(ヒゲの状態による)
ヒゲの青さを知る人よ
ヒゲがコンプレックスな人はとても多いと思う。
コンプレックスと真剣に向き合いながら、乗り越え、個性として昇華していくのが人生だ。
しかし、ヒゲは病院にいけば改善できる。コンプレックスの中でも比較的恵まれたコンプレックスだと思う。
努力で改善できるコンプレックスを矯正しないのは、行動力の欠如と言わざるを得ない。
と、強い口調でいってみたものの、実際にかなりお金はかかるし、美容外科クリニックに入るのは恥ずかしいのもよくわかる。
僕はヒゲを持つ君たちの味方だ。僕はヒゲ脱毛に満足しているが、万人がそうとは限らない。
ヒゲの青さを知る人として、同じくヒゲの青さを知る君たちの行動指標の一つのアイデアとなれると嬉しい。
そして、ヒゲ脱毛に悩む人が、この記事で少しでも勇気が湧いてくれたら幸せだ。